ふみサロ

『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』

みやけちあきの「ふみサロ」リブリオエッセイ vol.7

開催日:令和3年1月28日

課題本:『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』

 

「ふみサロ」とは?

塾長は元書籍編集者、プロデューサーにベストセラー作家を迎えたエッセイ塾。

毎月出される「課題本」から得たインスピレーションをもとにエッセイを書き、参加者同士で講評する。

『24色のエッセイ』カヴァー見返しより抜粋

 

「芸大ロスという病」

私は今日まで3回芸大生でした。

最後に私が卒業したのは京都造形芸大です。

29で卒業してから10数年たった今でも私の心は芸大ロスです。

 

芸術大学そのものの魅力はそれなりありますが、

芸大生に特有の優越性や特典みたいなお話をここではしたいと思います。

 

そろそろ進路を決めろと迫られる、高校2年の17歳たちは、大学選びをはじめます。

そんななか、芸大受験を決める生徒は、他とはどこか異質です。

人より絵が上手いとか、楽器が演奏できるとか、あの子らは、学力だけではダメらしい。

芸大受験のプラカードは、人とはどこか違っていたい17歳の自尊心をくすぐります。

 

芸大生であることは時に人を無口にします。

大学はどこ?と聞かれ、ひと言「芸大」と答えたら、それ以上人は詮索してきません。

「芸大生」はそれでひとつのステータス。

周囲が寄せる過度な干渉からもフリーです。

その快適さと優越性は何度も彼らを救います。

 

異物な自分をどこかに同化させたくて、ボヘミアンを探す人。

それが芸術大学生です。

心ゆくまで自分カラーでいられる暮らし、それが彼らの欲しいもの。

でも悲しいかな、そんなもの、実はこの世のどこにもなくて、芸大生の身にだって、やがて悲しき就職活動。

自分自身がしっくり収まる容れ物を、健気に欲してここまできたのに、異物の魔法を解くようにと、世間が彼らに迫ります。

無念と諦念、普通と擦り合わせの人生に、リトライです。

 

私はいくつになっても、人生のリトライの波に乗れなくて、3つの芸大を梯子(はしご)しました。

芸大生でいるかぎり、自分についての説明いらずの異物のままで通せます。

芸大生は私の隠れ蓑なのです。

でも、結婚をして出産をして、隠れ蓑を奪われて、私は芸大ロスになります。

ステイタスの喪失だ。芸大生に戻りたい。

 

私の病は芸大ロスです。

それはつまりどこか人とは違っていたいと願う類(たぐい)の病です。

それは一生治らない私を鼓舞する奇跡みたいな病であるかもしれません。

  • この記事を書いた人

みやけちあき

主婦の私は幸せなひとり時間にSNSで優雅に書いて投稿をしていたら文章力がついてきて令和3年6月に仲間と共著でエッセイ集を出版し著者のひとりになりました。

-ふみサロ

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